トイレマークのジェンダー問題について!男女同じ色形で提起したもの‐No.274

トイレマーク ――腕ナシ足1本ピクトグラム

トイレマークについて扱っていると、避けて通れないのが男女平等の問題です。

そのジェンダーの問題に真正面から取り組んだ…ものの、ワイドショーなどで取り上げられて、日本中で物議をかもしたトイレマークがありました。

それが、愛知県大府市の男女同じ形のトイレマークです。

現在はもう一般的なものに変わってしまいましたが、今回は変わる前のトイレマークと、その問題について紹介します。

男も座って用を足す世の中だ。

トイレって感じする?

発見場所:愛知県大府市 大府市役所
発見日:2008年12月
提供:「気持ちがいいトイレの小物たち」コン様
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大府市・男女同じ形のトイレマークの概要

トイレマーク気持ちがいいトイレの小物たち」コン様の提供

愛知県大府市は2000年から2008年まで、男女が同じ色・形のマークを、市庁舎のほかJR大府駅などの全5カ所の施設に採用しました。

このマークは、男女とも緑色で便器に座った同じ形のマーク、それにマークと同じくらいの大きさで「男 おとこ」「女 おんな」、それに「Men」「Women」と念入りに漢字・平仮名・英語の記載があります。このマークは、2000年に市庁舎が建設された際に、業者から提案されたデザインの中から選んだそうです。

こうしたマークを選んだ理由は、男女共同参画の視点からだったといいます。「男は青でヒト形、女は赤でスカート」といった従来のトイレマークが「区別が固定化して差別を生むことを懸念し、いっぺん同一にしてみようかと(踏み切った)」とのことです。

しかしその後、このマークには賛否両論が続出。

今までのトイレマークに慣れた人、特に子どもやお年寄りは間違う人が多かったといいます。「区別と差別は違う」という意見もあったとか。こうしてこのマークは、SNSやメディアにも取り上げられ、日本国内で論争が巻き上がりました。

流れが変わったのは2005年、政府が「男女共同参画基本計画(第2次)」に以下の指針が明記されました。

「公共の施設におけるトイレの男女別色表示を同色にすることは,男女共同参画の趣旨から導き出されるものではない

結果的に2008年、大府市はトイレマークを一般的なトイレマークに変更しています。

大府市のマークの問題点

当サイト管理人ゴロゴロが思うこのトイレマークの問題点は以下の3つです。

  1. 色が同色
  2. 男女とも座っている
  3. 結局文字に頼っている

では、一つずつ解説しましょう。

1.色が同色

実際に並んでいた感じのものがこちらです。色分けされていたら、遠くからでも判別ができますが、こちらは同色、結構近づかないとわかりませんね。

日本では、男が黒または青、女は赤またはピンクといった色分けが慣例的に行われています。

正直、私もずっと調べて入るのですが、今のところ男女の色分けについての明確な理由が見つかっていません。文化的背景とか、いくつか説はありますが、よくわからないんですよね。なので慣例的にとしか言いようがないのです。理由がよくわからない以上、大府市が懸念するような「固定化した区別」で、「差別が生まれる可能性」があることも事実です。

しかし、上記の通り今回のこの騒動の渦中の2005年、国は男女共同参画計画(第二次)で「公共の施設におけるトイレの男女別色表示を同色にすることは,男女共同参画の趣旨から導き出されるものではない」という一定の指針を示しました。「社会制度・慣行の見直しを行う際には,社会的な合意を得ながら進める必要がある」とも指摘しています。

今回の男女の色分けについても、この男女共同参画計画で指摘された「社会的合意」とまではいかなかったということがあるのではないかという気がしています。

ちなみに男女の色についての考察は、以下のページも合わせてご覧ください。

男は青、女は赤のイメージは日本ではいつから?歴史でみる色分けについて-No.123
日本人の衣服の色の歴史について考えてみます
トイレマークの男女の色に違いがあるのはなぜ?海外もチェック!
トイレマークの色分けについて解説します
ピンク色が女性の色となったのはなぜ?いつからなの?‐No.916
ピンク色が女性の色に見られるようになっている件について考察します。
紅白の由来とは?対比の色とされるのはなぜ?‐No.544
紅白の色分けについて考察します。

男女の色分けについては、私も探求し続けます!

2.男女とも座っている

例のトイレマークの手前にあった「トイレ」の案内表示はこのマークだったそうです。休憩所に見えなくもなく、そもそも、座って用を足すこの形は、「トイレ」を表すのに有効かどうかも難しい点です。

百歩譲ってトイレに座っていると即座に判断できたとして、トイレに座る行為を考えてみたのが以下。

男性 女性
大のとき 座ってする 座ってする
小のとき (一部)座ってする
(一部)立ってする
座ってする

こうしてみてみると、トイレで座ること自体は、男女ともに当てはまります。むしろ、男も小をするときに座ってする人もいるので、全体で見れば、立ってすることの方が少ないともいえます。そのため「トイレ」を座っているマークで表すのは、男女共通なんだからいいじゃん!…なんていう論理も成り立つと言えば成り立ちます。

しかし問題は、「立ってする」という行為が、「(一般的に)男性ならでは」であるということ。女性は立って用を足すということをあまりしません。

 

※(追記)女性も立って排尿をする地域や時代もあると一部指摘がありました。ごもっともです。上記文章に(一般的に)を追加しておきます。

 

トイレの仕方が男女で傾向が違うという性差は、どう変えようもない事実です。

「男女共同参画計画(第2次)」(2005年)では、こうも言っています。

性差を否定したり,男らしさ,女らしさや男女の区別をなくして人間の中性化を目指すことは,国民が求める男女共同参画社会とは異なる。

性差の否定は、用を足すということの否定にもつながりかねません!

3.結局文字に頼っている

トイレマーク

そもそも、トイレマークの誕生の経緯が(諸説ありますが)、1964年の東京五輪の際に、世界各国から人々を迎え入れるにあたって、「文字に頼らない表示を」との意図で作られたものと言われます。

詳細は以下ページをご参照ください。

東京オリンピック’64がトイレマーク誕生のきっかけ?誰が作ったの?‐No.355
トイレマークの元祖というべき1964年東京オリンピックのトイレマークを紹介します。

 

トイレという場所が、男女が別という造りの性質上、男と女の表記も必須になってきます。

今回のトイレマークは男女同じ形なので、マークだけでは、男女の判別ができません。そのため同じくらいの大きさで「男」「女」の漢字による表記、さらに平仮名による「おとこ」「おんな」、英語による「Men」「Women」も書かれています。

結局、男女の判別には文字を使うしかありません。日本語または英語がわかる人だけに伝える、というものになってしまっています。トイレマークの意義がなくなってしまいました。

男女共同参画社会計画について

ここで今までの問題で出てきた「男女共同参画社会」について少し触れたいと思います。

政府は、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によってあらゆる分野で活躍できる社会」を目指して、平成11年(1999年)に「男女共同参画社会基本法」を施行しました。

内閣府には特命担当大臣を設置したほか、地方公共団体でも担当課や条例などが作られ、各自治体で様々に試行錯誤してきたのです。そしてそのなかで、「ジェンダーフリー」の名のもとに混乱が起きたことも事実です。

そうしたなか2005年には、男女共同参画基本計画(第2次)に以下の文が追記されることが閣議決定されました。

(2)「ジェンダー・フリー」という用語を使用して,性差を否定したり,男らしさ,女らしさや男女の区別をなくして人間の中性化を目指すこと,また,家族やひな祭り等の伝統文化を否定することは,国民が求める男女共同参画社会とは異なる。例えば,児童生徒の発達段階を踏まえない行き過ぎた性教育,男女同室着替え,男女同室宿泊,男女混合騎馬戦等の事例は極めて非常識である。また,公共の施設におけるトイレの男女別色表示を同色にすることは,男女共同参画の趣旨から導き出されるものではない。

いきすぎた男女平等を制するなかで、トイレの色分けも触れられました。でも、形には触れていないということが興味深いですね。

JISトイレマークの制定

この時期、あるもうひとつの重要なトイレマークが制定されます。それが、2002年に制定されたJISのトイレマークでした。

トイレマークで一般的なJISマークのものは?素材はどこで入手できる?-No.002
今回は一番と言っていいほどよく見るトイレマークについて解説します。

 

これは、同年開催の日韓ワールドカップに合わせて、ピクトグラムで日本で統一した規格がなかったことから、「喫煙所」や「案内所」といったマークとともに、制作されたものです。

これが日本の国家規格である「JIS」に制定された2002年以降、公共施設ではこのトイレマークを採用されることが多くなりました。

そして、2008年に、大府市が問題となったこの同一トイレマークから、一般的な「男が青・ズボン、女が赤・スカート」のものに変更した際も、このJISトイレマークが採用されています。

大府市は元のマークに戻したというものではなく、この時期新しく日本の統一規格に制定されたトイレマークを選定した、という形なのも、トイレマークの歴史的には注目どころです。

男女同一トイレマークまとめ

考えてみれば、これらトイレマークの問題は2000年代にあったということは、まだまだ最近のことですよね。

でもJISのトイレマークが登場して、トイレマークは落ちついたと思いきや、最近ではあえて奇異なトイレマークを採用することもあるので、まだまだトイレマークは見どころがあります。トイレマークウォッチングは生涯していく所存ですので、お付き合いください。

【追記】男女その他も入れる男女共用トイレへの流れ

この大府市トイレマークから10年以上たち、最近ではマークだけではなく、造りも男女どちらも入れる「男女共用トイレ」が注目されています。この件についても記事にさせていただきましたので、こちらも是非↓。

男女共用トイレについて!なぜ必要?トイレマークに決まりはあるの?-No.1022
男女共用トイレについて検討します。

 

参考文献

トイレマークからみた国際化・性の受容に関する研究 飛田舞ほか https://www.kyokyo-u.ac.jp/student/e-project/h23_07_toiletmark.pdf

男女共同参画局 平成21年版男女共同参画白書http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h21/zentai/html/honpen/b1_s00_01.html

「やはり必要?トイレの男女マーク 揺れる大府市」中日新聞 10月28日11時24分配信分

コメント

  1. 夏の川 より:

    中世、フランスでは貴族の女も立ってしていたらしいですよ。なので、男の特権という考えは間違いでは

    • ゴロゴロ ゴロゴロ より:

      夏の川様

      ご指摘ありがとうございます。

      一般的にという文等を追記しました。そういった傾向があるという具合で見ていただけたらと思います。

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